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​音楽文庫

「読むように聴け」これが音楽文庫のコンセプト。物語性があるというのではなく、物語そのものとしての音楽であろうとする。一つ一つの作品が、小説や映像作品のようにドラマチックな、あるいは何らかのストーリー展開を見せる。また究極の美しさを求めてやまなかった三島由紀夫、幻想世界を生きた萩原朔太郎らのオマージュ作品やオリジナル絵本なども。

猫街

一説によると、この世界は一つではないそうです。同時にいくつもの世界が存在し、まじわりあっているのもあるそうです。いま私達がいるこの世界も昼と夜、光の当て具合なんかで、全然違った世界に見えたりしますもんね。ちょっと違うか。
作家の萩原朔太郎は、自分が発見した不思議な猫町のことを小説に書いています。朔太郎は、いつもと違う道順をたどることによって猫町に入ることができました。
要するに意識をずらしたんでしょうね。
そこではすべての人が猫に変わっていたという想像もしなかった世界が広がっていました。猫町があるなら、犬町、こおろぎ町、キノコ町もあるかもしれませんね。いったいどんな世界か、想像するだけでワクワクします。なんとなくユーモアがあって、どこか懐かしい感じ…。
実は、猫街、私の家の近くにもありました。ありましたというのは過去形で、今はもうありません。
なぜ私のところの猫街はなくなったのか、そしてそれはその後それはどうなったのか。その顛末を歌にしたのが、これからお届けする猫街です。
私の町の猫街には、こんな具合にして入ります。では、ご案内しましょう。

猫街

 

 

この街には 
誰も知らない秘密がある
昼と夜がまざりあった
黄昏時

街の入り口にかかる 
昔からある古い橋を 
目を閉じて
後ろ向きに渡ると 
猫街に出るんだよ

まるで朔太郎の
小説さながらに

駄菓子屋のおばあさんは 
丸メガネに焦げ茶の 
三毛猫になって  
店の前でゴロゴロ

 

ガラス屋のおじさんは 
灰色に黒い縞模様の 
サバトラとなって  
鏡の前で大あくび

僕が通るたび 
手をあげて  
ミヤーと挨拶してくれる
見たこともないはずなのに
なぜか懐かしい 
猫街の風景  

だけどある日老朽化工事とかで                             猫街へ渡る橋が壊された怪奇現象は
困ると迷い込んだ市民
からの苦情を受けた役所が
やむなく動いた
という噂だよ 


まるでホラー映画の
結末さながらに

新しい橋になって猫街は
もう二度と見ることも行くことも      

できなくなってしまった 

路地裏のスナックにいた
黒と白のブチ猫の 
カッコつけたボーイたちは
どこへ行ったのだろう 

僕が大好きだった        
きれいなオッドアイをした 
花屋のチャトラ姉さんにも
二度と会えなくなった

いつからか新しい橋の周りでは 
猫街を懐かしむ人たちが増えてきた 
オッドアイのコンタクトをしたり 
白黒ぶちのシャツを着たりして
なんだか猫みたいになって歩いているよ  
                                                              
雑貨屋の三毛猫のおばさんも
ガラス屋のサバトラのおじさんも 
みんなどこかに行ってしまったけど 
今度は僕らが街の風景になるよ

​夢の降る街角

どの街にも、夢の降る街角というのがあります。目には見えないのですが、そこへ行くとなんとなく嬉しくなったり、幸せな気分になったりするので、すぐわかります。
そこではいろんな夢が人の体に舞い降りてきます。医者や学者になる夢だとか、ボクシングで世界一になる夢だとか、やさしい恋人に出会う夢だとか、私だったら感動の名曲を作る夢だとか。人はそれを受け取り、自分の夢として育てるのです。
夢の降る街角では、今日も見えない雪のように夢が舞い降りています。あなたはどんな夢を受け取りたいですか?


夢の降る街角
人のざわめきも 消えて
ただ夢だけが シネマライトのように
音もなく降りしきる

すべてが幻のようなイヴ
百年に一度の恋も
なんだかきっと 叶いそうなそんな気がして

夢よ せつなく愛しい夢よ
どうかこの街にも降りてこい
君よ やさしく愛しい君よ
あたしの心にも降りてこい

金色の雨のように
夢が夜をぬらしていく
失われたドラマが始まり
悲しみの街にも 喜び訪れて


夢の降る交差点
ささやく声も 消えて
ただ夢だけが ネオンライトの中で
鮮やかに降りしきる

懐かしい不思議な夜
ひとりぼっちの恋人たちも
きっと誰かに巡り会えるような
そんな気がして

夢よ せつなく愛しい夢よ
どうかこの街にも降りてこい
君よ やさしく愛しい君よ
あたしの心にも降りてこい

舞い落ちる夢の中
キミは踊りだす
あふれる愛が キミを包み
そして街を覆っていく

ただ 夢だけが
音もなく降り注ぐ 街角
誰にも気づかれない涙のように
ただ 夢だけが音もなく降り注ぐ

夢よ せつなく愛しい夢よ
どうかこの街にも降りてこい
君よ やさしく愛しい君よ
あたしの心にも降りてこい

夢よ ああ夢よ あたしの夢よ
あなたの街にも降り注いで
夢よ ああ、せつなく愛しき夢よ
あなたの心にも降りてこい)

ラララ…、ラララー…。
 

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